バリー・シール/アメリカをはめた男 (American Made)


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私の好きなトムクルーズを見てきました。私はトムクルーズが好きなので本記事は完全にポジショントークです。といっても若い頃のトムあんまり見たことない。私が知っているのは2010年代のトムクルーズです。あとミッション・インポッシブルシリーズだけは全部見てる。うそですMI2は挫折した。

私が映画をたくさん見はじめたのはこの数年で、そのきっかけがトムだったんです。2014年夏公開「オール・ユー・ニード・イズ・キル」。当時(今も)鬱っぽい気分で映画館に入った私、うわーー面白かった!!!となにかをキメたかのように出てくる事態が発生。当時(今も)見る映画の選定基準が軽はずみだった私、トムクルーズ?有名な人だ!って入ったんですよね。有名な人の映画に行ったら面白かった。これ大事だったんじゃないかと思います。映画というジャンル全体への信頼度が上がった。メジャーなものが面白いの大事。

つい自分語りをしてしまいましたがトムクルーズについて語ると人は自分の人生を語ってしまいがちではないですか? あんな時見たとかこんな時見たとか誰と見たとか。10000人いれば10000人のトムクルーズとの邂逅エピソードがあると思います。トムクルーズは人生。

 

本作は冷戦期にパイロットとして活躍し、CIAの任務につく一方で麻薬カルテルとも手を組んでバカ儲けした世紀の山師、バリー・シールの伝記映画です。監督はダグ・ライマン。トムとは「オール・ユー・ニード・イズ・キル」から再度のタッグ。そうだトムのことばっかり言ってるけど上記の私の人生エピソードでいえばダグ・ライマンにももっと思い入れてしかるべきなのでは? 「ボーン・アイデンティティー」が好きじゃないから忘れてた…ごめんライマン。

 

それで感想なんですけど(ここまで長かった)、私のおもな感想としては「この邦題ちがくない!?」なんですよ! 2017年も邦題の良し悪しいろいろあったと思いますが私としてはこの1本。見たのかと。邦題を考えた人は。トムを見たのかと。見てきてるのかと。だってぜんぜんはめてなくない?はめられてない?というか2010年代以降のトムはずっとはめられっぱなしだし「はめられ陥れられ無茶ぶりされる俺」を銀幕でそれはそれは嬉しそうにニコニコしながらトムが演じる制作&観客vsトムのSM(SはサービスのS)が展開されているのが2010年代のトムクルーズシーンじゃない!?と思った次第です。

 

私のスタートである「オール・ユー・ニード・イズ・キル」なんかはもう絶対的にそうなんですけど、トムはエミリー・ブラントに対しひたすらタジタジする役。トムクルーズはタジタジするのが今地球上でいちばんうまい。突拍子もない話を聞かされて「何を言っているんだ…?」という顔をするのが現代最高の職人芸(もうひとつトムが地球上でいちばんうまいのは「満更でもない」顔です。みんな「オブリビオン」見た?あの満更でもない顔すごくなかった?私はあまりの満更でもなさに気絶しました)。思い出してほしいんですけど「ミッション・インポッシブル」シリーズのイーサン・ハントは常に裏切られつづけ、不可能な任務という無茶ぶりをされつづける人物です。これがトムの中の性癖を刺激した(仮説)。「アウトロー」1作目はクールに決めたものの2作目「ネバー・ゴー・バック」ではもう突然現れた娘?と女性の相棒にたじたじしていた。もうねたじたじががまんしきれてない。「ザ・マミー」も王女様には見初められるわジキル博士にはなんかよくわからない話をされるわ「何を言っているんだ…?」顔の大盤振る舞い。

でもトムクルーズのキャラがすごいのはそのあとの笑顔なんです。「何を言っているんだ…?」→「にやあ」までが異常に短い。がまんできてない。「何を言っているんだ…?」→「いいね!」ってことなんですよ。なんかわからないけどいいね!なんかわからないけどまかせとけよ!なんかわからないから燃えてきたね!ががまんしきれない。あほ最高じゃないですか?

 

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にやあ

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いいね!

 

私の知ってる2010年代のトムクルーズって自分から何かをコントロールしようと「はめる」ような感じじゃないんですよ。流れのままに生きたい。世界から俺にそそがれる無茶ぶりをすべて受け入れたい。銀幕のスター・トムクルーズがたどりついた究極の受け身、悟りの状態。だから本作はおそらくトムが演じる時点でかなり方向性が変わったと思うし企画時点からトムならアテ書きだし、原作本も史実もチェックしてないので当て推量ですが本人ともちがうと思う。特にバリー・シールの動機などに関して。この映画のバリー・シールは受け身すぎる。そして受け身が楽しそうすぎる。「僕には見る前に飛ぶ悪い癖がある」とバリー・シールもといトムは言う。それは確かにバリー・シールとトムの共通項であるかもしれないけど、でもトムのバリー・シールは野心家であり山師というより、なにかもうギャンブルに勝つことさえも狙っていないような…ただ激流に飲まれたかったような…飲まれている俺が一番輝いているような…まあなんていうかトムでした。トム。トムがバリー・シールを演じたというより、バリー・シールを通してトムを見たよね。トムの人生を比喩的に表現したみたいな。本人を食いすぎでは。

 

そんな激流を満面の笑みで流されゆくトムを私は今後も「ありがたい…」と手を合わせながら眺めていく所存です。次は?次は「ミッション・インポッシブル」の続編だ! 今度はどんな無茶ぶりにトムはあの笑顔を見せるのか。今後も目が離せないトムです。

 

フラットライナーズ (2017)

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2017年オータムシーズンの酷評No.1(予定)の「フラットライナーズ (2017)」です。オータムシーズンどころかオブザイヤーも狙える! 私はスリラー/ホラーの境界のような映画が好きで、本作も予告を見てたいへん楽しみにしており、いそいそ見てきたのですが、開巻30分時点くらいで臨死でした。

でもだからといって実際どのくらいつまらないの!?興味ある!!となるほどアレでもなくて、ほんとなんの変哲もなくクオリティが低いだけのホラー映画なので、熱の入ったレビューもできなくてなんかすまない。でも「フラットライナーズ (2017)」がこの世に生きた証をのこしたほうがいいかと思って反省会的に書いた。あとブログ始めて気づいたんですけど私にはなにかがダメだった映画について書きたいという強い意志がある。

*ちなみに1990年版未見です。

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The Emoji Movie

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褒めたい。

2017年サマーシーズンNo.1酷評の「The Emoji Movie」です。愛せないキャラデザ、あからさまなプロダクトプレイスメント、使い古された「ありのままの自分でいいんだよ」テーマ、陳腐かつ意味不明という一見相反することを実現したストーリー、あとうんこ役にパトリック・スチュアートを起用するという「クソが!」と言わせる気のキャスティング。”ソニーが子供をあてこんだ金を稼ぐためだけに作った”と商業主義の悪の権化としてヘイトを集めまくりました。(そして実際にマネーも稼ぎました。「ジョン・ウィック:チャプター2」より世界興収は上だー!商業主義の実力!)

そこで私の判官びいきの血が騒いだわけではないんですけど、いや待ってまじでジェイルブレイクよかったでしょ?! ジーンとジェイルブレイクの成就しない恋愛要素すごく今っぽかったでしょ??!! なんかみんなここだけはよかったよね~って言ってくれてるかと思ったらあんまり言われてなかったので悲しかった。この映画フェミニズム的にもぜんぜん褒められてないっぽいんだけどいや待ってほとんど怒りのデスロードだったでしょ!!?? 私が安易にデスロード魂を感じすぎなのかもしれないけどみんなもっと感じよう。商業主義のディストピアでデスロードを疾走したジェイルブレイクのこと忘れないで…。

というわけで褒めたさが出たので書きます。ジェイルブレイク(写真左)に関するストーリーライン最後までネタバレします。それ以外はごく簡単にぶっとばすのでコミックリリーフ役のHi-5(写真右)のやばさとかは見て確認してほしい。商業主義の権化だから日本公開してくれると思います。

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レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー

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またまた父と子の話で登場のレゴ3作目。レゴはお父さんとの関係になにか問題意識があるんでしょうか。いや父と子というか中心は父。父になりたくない、子をもちたくない、子がいてもかえりみたくない男の話3連発。2017年は「レゴ バットマン ザ・ムービー」でも家族をつくる勇気を持てない男ことブルースがヤダヤダーだってやだもんこわいもん!と文字どおりゴロンゴロンころがりまくりながらダダこねまくり(あそこかわいかったよね)、それでもなんとか立ち上がってロビンと疑似親子関係を結びました。1作目「LEGO ザ・ムービー」でも次元を超えたクライマックス、私も号泣でした。今回、「レゴ ニンジャゴー」のテレビシリーズは未見なのですが見てなくてもあんまり問題なかった、というのもたぶんTVシリーズより映画2作の系譜を引いてる、というか「LEGO ザ・ムービー」の父子テーマに「レゴ バットマン ザ・ムービー」のブルースを合体したような、率直にいってまたこれ…?みたいな感じだからです。

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It Comes at Night

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災害が起きたり、ゾンビや宇宙人が襲来したり、世界が終わりにさしかかったりすると、「俺は俺の嫁と子供だけは何に代えても守るぜ!」と一念発起するお父さんがたくさん出てきます。そんなお父さんたちに地獄へ落ちてほしい層(私など)向けの映画、トレイ・エドワード・シュルツ監督(「Krisha」)の「It Comes at Night」です。今をときめくA24配給。

私の住んでいる地域では「The Book of Henry」と同週の公開で、完成度という言葉が辞書になかったがジェットコースター式に楽しく見られた「The Book of Henry」と、完成度はすばらしいが地を這うように地味な「It Comes at Night」、私はどちらも好きだったので勝手に姉妹作だな!と思っていました。どっちの制作者からも心外な顔をされそう。というわけでこちらも記事を書いていきたいと思いました。

 

途中は省きますがラストシーンまでネタバレします。でも本作の魅力は起こったことそのものより全体にただよう空気、恐怖・息苦しさ・排他性、そういうところにあると思うので鑑賞おすすめです(Netflixの方角へ祈りながら)。

 

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