The Emoji Movie

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褒めたい。

2017年サマーシーズンNo.1酷評の「The Emoji Movie」です。愛せないキャラデザ、あからさまなプロダクトプレイスメント、使い古された「ありのままの自分でいいんだよ」テーマ、陳腐かつ意味不明という一見相反することを実現したストーリー、あとうんこ役にパトリック・スチュアートを起用するという「クソが!」と言わせる気のキャスティング。”ソニーが子供をあてこんだ金を稼ぐためだけに作った”と商業主義の悪の権化としてヘイトを集めまくりました。(そして実際にマネーも稼ぎました。「ジョン・ウィック:チャプター2」より世界興収は上だー!商業主義の実力!)

そこで私の判官びいきの血が騒いだわけではないんですけど、いや待ってまじでジェイルブレイクよかったでしょ?! ジーンとジェイルブレイクの成就しない恋愛要素すごく今っぽかったでしょ??!! なんかみんなここだけはよかったよね~って言ってくれてるかと思ったらあんまり言われてなかったので悲しかった。この映画フェミニズム的にもぜんぜん褒められてないっぽいんだけどいや待ってほとんど怒りのデスロードだったでしょ!!?? 私が安易にデスロード魂を感じすぎなのかもしれないけどみんなもっと感じよう。商業主義のディストピアでデスロードを疾走したジェイルブレイクのこと忘れないで…。

というわけで褒めたさが出たので書きます。ジェイルブレイク(写真左)に関するストーリーライン最後までネタバレします。それ以外はごく簡単にぶっとばすのでコミックリリーフ役のHi-5(写真右)のやばさとかは見て確認してほしい。商業主義の権化だから日本公開してくれると思います。

 

主人公のジーンは「Meh (へー、ふーん、興味ないね)」の絵文字。でも他の絵文字とちがってうまく顔が保てない。一種類の表情しかないはずの絵文字としては異常な、表情豊かな絵文字なのです。

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「Meh」の正解はうしろにいる両親の顔。

 

「自分はバグなんだ!」と追いつめられたジーンは、そこへゆけば凄腕のハッカーがバグを直してくれるという夢と自由の地「クラウド」を目指して旅に出ます。

社会に与えられた役割を演じられない自分、 みんなと違う自分はきっと何かの間違いに違いない、直されて"正常"にならなきゃ…。特に思春期のそれは切実な気持ち。わかる。そしてこの設定が導入された時点で、最終的には「ありのままでいいんだ!」となるのはわかりきってる。あとはどうやってジーンが自己を受容するかしかない。開幕10分で論点が出尽くした。

 

そこでジェイルブレイク登場です!

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伝説の凄腕ハッカーは実は女の子でした。その名もジェイルブレイク(脱獄)。以前ミステリアスに姿を消した、プリンセス絵文字の失踪にもこのハッカーが関わっているみたいです。どんな関わりなんでしょうか。

と書いてる間にもジェイルブレイク自身が実は失踪したプリンセスであることがばれます。観客にはこのくらい秒速でばれる。ジーンには30分くらいばれない。

「プリンセスの絵文字だからっていつも髪型やドレスを気にしてるとか!呼べば小鳥が飛んでくるとか!そういうふうに思われるのがもういやだから私はクラウドへ行って自由になりたい!」

 

ジェイルブレイクが凄腕ハッカーだけかと思ったら「実はプリンセスでした」というのでまたか…と萎えた向きもあるようですが、ここでのプリンセス発覚は「シュガーラッシュ」などでの発覚とは違って、プリンセスは特別さの象徴ではなく、社会に押しつけられた画一的な役割の象徴で、ジーンにとっての表情と同じです。

まだ見ぬ自由の新天地を求めて、スマホの中を爆走するジェイルブレイクとジーン(とHi-5)。ここの冒険がメインだけどとばします。

 

クラウドに着いたよ!

 

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ジェイルブレイクかわいい(画像はクラウドではありません)。

 

とうとうクラウドに到着した一行。ここでならジェイルブレイクはジーンのバグを直すことができる。

だがしかしここまでの冒険を通して自分に自信をつけていたジーン。バグを直すコードを呼び出すジェイルブレイクに歩みより、勇気を出して言います(うろ覚えのため大意)。

 

「君と一緒にいて、ありのままの自分でいいと気がついたんだ。バグは直さなくていい。このクラウドで、二人でずっと一緒に、自由に暮らそう」

 

 

 

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「えっ……別に、そういうつもりないんだけど……」(大意)

 

 

 

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自己を受容することと恋人として受容してもらうことは違う。

はき違えるなーーーー!ジーンーーーーー!!そこなんか流れで一緒にいこうとするなーーーーー!!!ジェイルブレイクはよく言った!!! 場のノリに流されない、NOと言えるジェイルブレイク。しかも実際はもっとやさしく言ってるからね!「あなたが自分を受け入れるのは心から応援するけど」ってちゃんと言ってたよ! やさしすぎて涙が出る。

私このシーンほんとに好きで、このシーンだけで「The Emoji Movie」のすべてがほぼ許せた。桃源郷としてのクラウドも美しかった。いやほんと大事なことですよ。本人の自己受容とパートナーとして認めてもらえるかどうか関係ない。ここテストに出ると思います。

 

 

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 ふられたショックで「Meh」の顔になってしまったジーン。

 

 

ジェイルブレイクについてはこのあとがけっこう意見分かれるみたいなんですけど、クラウドで新生活を始めようとしていたジェイルブレイク、ジーンが捕まってバグとして消去されそうになっていることを知り、故郷のテキストアプリへと駆けつけます。

ここを「結局好きな男のために自分の夢をあきらめる女の子の話じゃないか!」という意見もあるんですけど、いやさっきジーンのこと好きじゃないって言ってたよ! これは別に好きとかでなく人類愛では!? 私には自由になる夢があるから友達がピンチでも自分の夢を優先します!というのも勇気だけど、ジーンのために駆けつけるのはヒロイックだと思う。だって友達だから。

しかもここで駆けつけるために呼ぶのが「お姫様だからって小鳥が呼べるとかマジそういう先入観カンベンだから!」と言ってた小鳥。

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私たちのよく知っている小鳥。 

 

ここを結局ジェンダーロール肯定じゃん!っていう見方もあるみたいだけど、でもこれはほらお姫様はお姫様らしいことをしてもいいんだっていう。しかもそれでヒーローになれるんだよっていう。「ワンダーウーマン」の精神だと思ってほしい。

 

私はジェイルブレイクのことしか書く気がないのでラストバトルも割愛しますが、エピローグとして、平和を取り戻したテキストアプリに帰還したジェイルブレイク、ふたたびクラウドを目指すことはなく、故郷のアプリでITスキルを活かした技術者に就任します。

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元いた場所で自分らしく生きよう。

 

最後もべつにジーンとジェイルブレイクがくっついた描写とかはないんですよね。フレンドリーではあるけど。だからジーンが理由でクラウドに行かずここにいるわけではないと思います(というかそういう解釈が一部あるぽいことにびっくりした)。私にとってはかなりハッキリ成就してないパターンの恋愛要素で、そこが今っぽいなあと思っていた。

 

押しつけられた役割を捨てて自由な新天地を目指したジェイルブレイクがそこに行けなかったのが残念だという思いもある。わかる。でもこれ行って帰ってデスロードだったよ! あるかもわからない解放の地を目指すより、元いた場所を取り戻そう(だってそれは奪われていただけでもともと自分の居場所なのだから)。びっくりするほどデスロード…って思ったけど今のところEMOJIイズMADMAXみたいな発言をどこでも確認できていないので、私の白昼夢なのかもしれない。夢かもしれないけどとりあえず褒めました。